GIGAスクール構想とは

GIGAスクール構想とは

 最近教育関係のニュースなどでよく耳にする言葉の1つに「GIGAスクール構想」というものがあります。これは、小中高等学校などの教育現場で児童・生徒各自がパソコンやタブレットといったICT端末を活用できるようにするため、1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備するという文部科学省の取り組みです。当初、2019年度から5年間かけて順次ハード環境を整備する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けてオンラインを活用した授業や学習への必要性が高まったことから、端末導入のスケジュールを大幅に前倒ししています。

GIGAスクール構想のメリットとデメリット

 教育現場でICTを活用することで、どのようなメリットとデメリットが考えられるでしょうか。
 まず、メリットとしては、次のようなものが考えられます。

①授業の幅が広がる
 1人1台の端末が配備されていない環境では実現できないような、インターネットを利用した検索による調べ学習や、プレゼンテーションの作成やデジタル美術作品の制作、海外など遠方の学校とのビデオ通話を通じたコミュニケーションなど、アイデア次第で授業の幅が大きく広がります。

②生徒同士、教員と生徒間の情報共有がスムーズになる
 連絡事項や授業の内容、アンケートの回答、テストの返却、提出物の進捗状況など、必要に応じてさまざまな情報をデータでやり取りできるようになります。従来のように口頭やプリントなどでのやり取りよりも確実で履歴も残るため、管理がしやすくなり、集計なども簡単に行えるようになります。

一方、以下のようなデメリットもあるでしょう。

①手書きによる学習機会が失われる
 学習ツールが、これまでのようなノートと鉛筆からパソコンやタブレットに変わることで、手書きで文字や絵をかく機会が減ることから、手書き学習によるメリットが得られなくなるという危惧があります。
 手書きには、何度も繰り返し書くことで記憶に残ることや、要約力、理解力などの向上が学習効果として期待できます。また、筆記具を使って書くことは、脳の活性化にも役立つといわれています。 手書きの機会が完全に失われるわけではないでしょうが、大きく減ることが予想され、これらの効果があまり得られなくなる可能性があります。

②SNSトラブルなどのリスク
 GIGAスクール構想の推進以前から、子どもたちのSNSによるいじめや犯罪被害、スマホ依存といったトラブルが表出していました。GIGAスクール構想推進によって学校にいる間もデジタル機器やインターネットに接するようになることから、こうしたトラブルのリスクが上がるのではないかという不安もあります。

③家庭への端末の持ち帰り問題
 支給されたタブレットを家庭へ持ち帰ることで、よくあるのが「子供がYouTubeを見るようになって困る」という問題です。学校側としては「アダルトサイトなどはフィルターがかかっていますが、YouTubeやゲームは制限がなく、学校の方で閲覧を止められません。学校ではもちろん『必要以上に見てはいけない』と指導していますが、家の中のことは……。家庭のことは家庭で対応してほしいというのが正直なところです」との意見もあるようですが、各家庭の保護者からしてみれば、「余計な心配事を増やさないでほしい」という気持ちも少なからずあるのではないでしょうか。
 その他にも、端末を家に持ち帰って故障させた場合の保険料の問題、各家庭の通信環境の問題、セキュリティ管理の難しさ、など技術的な課題もあるようです。

タブレットは1つの道具に過ぎない

 先月号「日本の教育の評価」でも触れましたが、日本の教育界は従来の教育方法を否定して新しいものに飛びつきがちです。もちろん、何か新しい試みを積み重ねていくことで、その中からより良い方法が見つかる可能性もあるので、「GIGAスクール構想」も全てを否定するのが正しいとは思いません。ただ、「それさえ導入すれば一気に学力が上がる」というような安直な期待を持つべきではないと思います。
 ある教育者は「大切なのは『こういう授業をやりたい』というビジョンを教師が持つことです。それがなければ、紙をタブレットに置き換えただけにすぎません」と言っていましたが、まさにその通りだと思います。便利で新しい機器があろうとなかろうと、自分が努力して勉強しなければ学力は伸びません。学習環境がどのように変化しても、この気持ちだけはブレずにしっかり持ち続けたいものです。